骨密度を増やすための最も重要な方法の一つが、「運動」です。
骨は一度できたら一生そのままというわけではなく、常に新陳代謝され、入れ替わっています。具体的には、骨を壊す細胞と作る細胞によってリモデリング(再構築)が行われており、適切な刺激を与えれば骨を作る「骨芽細胞」が活性化し、骨は強くなるのです。
例えば、骨に適度な負荷をかける運動は、骨密度の維持や改善に効果があります。運動は骨芽細胞を刺激し、その働きを高めることで骨を丈夫にします。これまでに示されているガイドラインによれば、「荷重運動(ウォーキング、階段昇降、ジャンプなど)」と、「最大筋力の70〜80%程度の筋力トレーニング(8~15回を2~3セット)」を組み合わせた複合運動が、腰椎や大腿骨の骨密度改善に有効であることがわかっています。このような効果は、閉経前でも閉経後でも認められています。一方で、水泳やサイクリング、ヨガなど、体重負荷の少ない運動は骨への刺激が弱く、骨密度の向上効果はあまり期待できません。
まとめると、骨は「重さが加わることで強くなる臓器」であり、基本的には筋肉と同様に、運動するごとに少しずつ強くなります。ただし、筋肉と違って骨が強くなったかどうかは自覚しにくいものです。ひとつの目安としては、筋肉が強くなるような運動は、概ね骨密度の増加にもつながっていると考えてよいでしょう。
日常生活の中でも、少し速足で歩いてみたり、エレベーターの代わりに階段を使ったりと、骨に刺激を与える機会は多くあります。たとえば、速足やジョギング、階段の下りでは体重の2倍程度、ジャンプでは3~5倍程度の負荷が骨にかかることが知られています。小さな刺激でも、継続することが骨密度改善の第一歩です。無理のない範囲で、日常生活の中にちょっとした習慣を取り入れていくことをおすすめします。
「骨密度は20代でピークを迎え、それ以降はあまり上がらない」と言われています。たしかに、骨量は10代後半から20代で最も高くなり、30代以降は加齢に伴って徐々に減少し、それが閉経後に加速されるのが平均的な骨密度の変化です。そのため、「一度骨密度が下がったらもう元には戻らない」と考えてしまう方も少なくありません。
しかし、それは必ずしも正しくありません。骨は一生を通じて絶えず代謝(リモデリング)を繰り返していて、生活習慣次第で改善の余地があることが明らかになってきています。たとえば、栄養状態と運動を見直した女性では、閉経後でも骨密度の回復を示したことなどが報告されています。
また、骨密度に大きく影響を与えるのは体重です。体重が軽い人ほど、骨密度が低くなることが知られていて、やせた20代の女性の40%くらいは骨密度が低下していることが明らかとなってきています。実際に、日本で実施された研究でも、20歳の時点と中年期の両方でやせている女性は、そうでない女性と比べて骨密度の低下リスクが約4倍高かったことが明らかになりました。その一方で、20歳時にやせていてもその後に体重が標準レベルに達した女性は、骨密度の低下リスクが増加していませんでした。これは、「若い頃にやせていたかどうか」よりも、「今やせているかどうか」が骨の状態に強く影響していることを示しています。
つまり、過去の状態だけで将来の骨を決めつける必要はなく、「今からでも遅くない」ということです。
とはいえ、「じゃあ実際にどうすれば骨密度は上がるの?」と気になる方も多いはず。そこで次回は、具体的に骨を育てるための栄養・運動について詳しくご紹介します。
「最近なんだか疲れがとれにくい」「肌や髪のコンディションが悪い」「冷えが気になる」「気分が落ち込みやすい」「便秘がち」――そんな日常の不調、もしかしたらFUS(女性の低体重/低栄養症候群)によるものかもしれません。
FUSは、低体重やダイエットやカロリー制限、食事の偏りなどを背景に、上記のような体調不良や貧血、骨密度低下などを合併している状態です。現時点では、明確な診断基準や治療ガイドラインはありませんが、こうした体調のサインがいくつも当てはまる場合は、FUSのリスクを疑ってみてもよいかもしれません。
まず取り組んでほしいのは、毎日の生活習慣の見直しです。次のようなことを心がけてみましょう。
・朝ごはんを含む1日3食をきちんと食べること
・主食(ごはんやパンなど)と主菜(肉や魚などのたんぱく質)を毎食に取り入れること
・夜はなるべく7時間以上の睡眠をとること
・1日8000歩を目安に体を動かすこと
こうした生活を1〜2週間ほど続けることで、「なんとなく不調だった気分が軽くなった」「朝起きるのがラクになった」といった小さな変化を感じる人もいます。特に、気分の改善や活力の回復は早く現れることがあります。
「病気というほどではないけど、何となく今一つ」そんな違和感をそのままにせず、自分の体からのサインに気づいてあげてください。FUSは、あなたの未来の健康に静かに影響を与える可能性があります。今日からできることを始めて、あなた自身のからだを守っていくと良いと思います。
近年注目されているFUS(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:女性の低体重/低栄養症候群)は、18歳以上で閉経前までの成人女性を対象とした新しい健康概念として提案されています。なぜこの特定の年齢層に焦点を当てているのでしょうか。
その理由の1つは、この時期が女性にとって「人生の土台を築く最も重要な期間」だからです。家を建てる際の基礎工事のように、この時期の健康状態が将来の体調や生活の質を大きく左右する可能性があります。例えば、20~30代は骨密度がピークに達する大切な時期です。この時期に低体重や栄養不足が続くと、骨の形成が十分に行われず、将来の骨粗鬆症リスクが高まります。その理由として、閉経後は女性ホルモンが低下し、それにより骨密度が加齢とともに大きく減ってしまうからです(図)。そのため、若いうちに骨の「貯金」を十分に蓄え、年齢を重ねてからその影響が深刻に現れないようにすることは重要と言えます。
このほかにも、低栄養状態は女性ホルモンのバランスを崩し、月経不順や排卵障害を引き起こします。これは単に妊娠しにくくなるだけでなく、妊娠前の母体の栄養状態が胎児の発育に影響し、早産や低出生体重児のリスクを高める可能性があります。つまり、母親の健康状態が次の世代の健康にまで影響を及ぼす可能性もあります。
閉経後の女性では、ホルモン変化や加齢そのものが健康問題の要因となる比重が高くなること、FUSへの対策の目的が異なること、などから、閉経前の女性とは枠組みを変える必要があると考えられます。そのため、今回のFUSのステートメントからは18歳から閉経前までの女性を対象とした指針としています。
しかしながら、閉経後の女性でも無理なダイエットなどを行えばFUSに含まれる症状や疾患が出現する可能性が高いです。現状では閉経後の女性においてもFUSに含まれる症状(倦怠感や冷え、うつ症状など)に注目し、普段の食生活や運動などを見直すきっかけにするのも良いかもしれません。
「たくさん食べても太らない」「周りからうらやましがられるけれど、実は体重を増やしたい!」そんな悩みを抱えている方はいませんか?
人の体型は実に多様で、生まれ持った体質(遺伝など)に大きく左右されます。その中でも「体質性やせ」という特性があることをご存知でしょうか。これは、ダイエットや過度な運動をしているわけでも、痩せたいと考えているわけでもないのに、長期間にわたって低体重の状態が続く体質的な特徴のことです。
体質性やせの方は一般的に体重が増えにくい傾向がありますが、ホルモン分泌や月経周期は正常に保たれていることが多いとされています。18~29歳で日本人女性の痩せている方の約40%が、意図的な減量行動をしていないという報告もあり、体質的な要因の存在が示唆されています。
体質性やせは病気ではありませんが、長期的な健康管理において注意すべき点があります。最も重要なのが骨の健康です。低体重の状態が続くと骨密度が低下するリスクがあり、若年期に十分な栄養を摂取できていないと、将来的な骨粗鬆症や骨折のリスクを高める可能性があります。
体質性やせの方は概ね健康な方が多いですが、定期的な健康診断を受け、骨密度測定や血液検査で栄養状態を把握すると良いかもしれません。また、総エネルギー摂取量だけでなく、ビタミンDやカルシウムなど、骨や全身の健康に重要な栄養素をバランス良く摂取することを心がけましょう。
体質性やせは生まれ持った特性であり、それ自体を責める必要はありません。重要なのは、自分の体の特性を理解し、それに合わせた適切なケアを行うことです。体型の多様性を受け入れながら、将来にわたって健康を維持するための知識と習慣を身につけることが、健やかな人生を送る鍵となると思います。